「中学校での研究授業」 ~うたまくら319号より - 正絃社

「中学校での研究授業」 ~うたまくら319号より

~中学校での研究授業~
       子どもたちの未来と
                世界の平和のために               金子奈美江
 
 中学校の研究授業で模範演奏を行いました。先生が選んだ曲は、野村正峰作曲「糸車」です。「小曲集」のなかでも短い曲で、さして難しい手法もなく簡素な中に、日本の音階が生かされた深い味わいがあり、合奏の楽しさも味わえるので、あらためて弾いて実に名作と思います。
近年の音楽の先生は、大学で箏の履修が必修になっているので、自ら演奏ができます。調絃も、「五絃をDの平調子にしてくださいね。」と頼むと、さすが、耳の良い音楽の先生で、その通りに準備されていました。

 授業を開始するにあたって、普段は始めに「立って」挨拶されるそうですが、日本の伝統文化なので、「座って」の(立奏台の前ですが)挨拶から始めました。背筋を伸ばして(背中にモノサシが入っているつもりで)、皆のお辞儀が揃うように四拍数えて頭を下げ、また四拍で戻します。見本をみせると、きれいに「礼」が決まりました。
「なるほど、礼に始まって礼に終わるのですね。」と、先生もにこにこされています。
反抗期の子どもたちが、校外講師の指導を素直に聞いてくれるのも、日ごろの先生方の指導の賜物でしょう。私の演奏を見る生徒の目は美しく、真剣で、箏に関わっていてよかったと思う瞬間でした。翌日、先生から研究授業のお礼の電話をいただきました。

 さて、箏の授業では、基本の姿勢(竜角から内向き30度くらいを目安に足をそろえて座る。右手の薬指を竜角に沿わせるようにして指先を揃え、親指は次の絃で止めるようにしっかりと弾く。親指の爪に他の指を添えない。左手は箏柱より左側の絃の上に軽くおく。演奏中も姿勢を整え、譜面台は箏と平行に近い角度で手元が見やすいように、など)に重点をおき、暗譜を奨励するなど、礼から始めて順次、基礎的なことを教えます。

 箏のない家庭でもソルフェージュ(唱歌)を行うことで暗譜力がつくので、歌うことを奨励し、男女で協力して演奏していない者が絃の位置を指さしたり、「押し手」を手助けするなどの方法で箏に触れさせ、先生が回って適宜、指導していきます。
実質三時間プラステスト一時間という短い時間で、一曲完成させます。実技テスト時には、開始の礼から終了の礼までを採点することで、緊張して弾けなくなってしまう子も、落ち着いて演奏できました。

 箏を長年学んできたものとして、子どもが箏に触れてから一曲演奏できるようになることは、望外の喜びです。箏の授業では、勉強では味わうことのできない達成感と、箏そのものから発せられるアルファー波の精神への好影響、邦楽器の生の音を直接耳にできることなど、メリットはたくさんあります。
この子どもたちがいつか大人になって、趣味を持ちたいと思った時の選択肢の一つとして、箏の鑑賞や演奏が含まれることは、伝統文化の継承としても大切なことです。海外で活躍する日本人が、自国のアイデンティティとして日本の楽器について説明できるならば、無形の財産の一つになることでしょう。

 私も海外で経験しましたが、音楽に国境はなく、箏の音色に涙するのは日本人だけではありません。言葉で言い尽せないことを、音楽は表現できます。楽器の音色の美しさは、人々の美しい気持ちを引き出してくれます。
箏の演奏を聴いた人たちが穏やかで平和な気持ちになってくれたら、世界は平和に近付いていくのではないでしょうか。
子供たちの健全な育成のために、ひいては世界の平和を願い、ささやかですが、私たちがお箏で寄与していけたらと思い、日々、研鑽に励んでいます。

(大師範・直門・西尾市)

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