戦後七十五年の夏   野村祐子 ~うたまくら331号より - 正絃社

戦後七十五年の夏   野村祐子 ~うたまくら331号より

戦後七十五年の夏   野村祐子

 原爆投下・終戦記念日が近づく日本の夏は、戦争の多くの悲惨な歴史がニュースに取り上げられます。
その中で私は8月7日の新聞に注目しました。

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 以前、母から聞いていたことは、
「爆撃に遭って防空壕に避難したけれど、42人が亡くなって・・・、遠くまで飛ばされたり、爆弾と一緒に地中に深く潜ってしまった人もあって・・・」という話でしたが、この新聞記事の爆撃は、まさに母の体験でした。
掲載されているかたは2年生の委員長で、母は1年生の委員長だったとは、この記事を機に初めて聞きました。避難していた防空壕が崩れ、土の中から這い上がってみると、ほかの防空壕には爆弾が直撃して42人が亡くなった、そこは自分たちが掘った防空壕だった・・・、と。
犠牲になった学友を体育館に運んで並べたそうです。どんなに悲しかったことでしょう。
ひょっとしたら自分たちだったかもしれない、生き残っても、その喜びを言葉に出せない苦しい思いもあったことでしょう。
当時の生活は、現在のコロナ自粛生活よりも、もっと悲惨な時代だったことでしょう。
日々の暮らしも不自由で、明日の命もわからない戦争の時代、言葉に言い尽くせない体験を乗り越えて生き残った母。父も運よく戦地から生き延びて復員。父母が生きて出会っていなければ、今の私たちも、正絃社もありません。
父の作曲で楽しく合奏することもなく、邦楽界のあり方も違っていたことでしょう。生き残ってくれたことに、ただただ感謝の一念です。
お父さん、ありがとう!!!
お母さん、長生きしてね!!!
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 平和の大切さ有難さ、音楽を楽しむことのできる喜び。何より父の曲からは、単に美しいだけではない深い思いが伝わってきます。胸に響く強い思いがあるからこそ音楽は強く美しく、深い感動が生まれます。その意を演奏する喜びがあります。
苦しい戦争体験を封印しておられるかたも多いことでしょうけれど、『戦争は絶対にいけない』ことを伝えていかなくてはならないと思います。
箏を弾くことで平和な社会への父の意を伝え、情操豊かな人間でありたいと、強く心してお稽古に励んでまいります。
皆様よろしくお願いいたします。

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