正峰作品を紐解く ~うたまくら338号より - 正絃社

正峰作品を紐解く ~うたまくら338号より

正峰作品を紐解く        野村 祐子 

今回はほぼ同じ調絃の組み合わせで作曲された合奏曲を並べてみましょう。

「虫の音の手事」

「編曲長唄越後獅子」

「双調七章」

曲の解説には既に目を通されていることとは思いますが、改めてお読みください。

 

〇虫の音の手事

 長唄の中にはお座敷ものと呼ばれ、歌舞伎や舞踊などの地ではなく、鑑賞を目的に作曲された曲があり、この曲の原曲である「秋の色種」もこのジャンルに属しています。
 「」は、十代目杵屋六左衛門が、有力な後援者である奥州南部藩の殿様佐竹済公の詩に作曲し、難解な漢文調の美文の詩を巧みに歌い込んだ名曲で、お殿様を感嘆させたというエピソードもあります。
 曲中には、琴の手事、虫の音の合い方、という長唄の中に箏曲風な味わいを挿入した部分があり、これを主軸にして前奏と間奏に創作部分を加え、また、長唄の上調子や鳴物の雰囲気、箏曲に使われるさらしや砧地などを取り入れた合奏曲に仕立てています。
 長唄との合奏も可能で、箏曲、長唄に隔たりなく、名曲を幅広い邦楽愛好者の振興に役立てていただきたいという期待も込めた作品です。(1966年編作曲)

 

〇編曲長唄越後獅子

 長唄の越後獅子は、文化8年(一八〇四)江戸の中村座の狂言に、三代目中村歌右衛門が演じる七変化の所作事のために、九代目杵屋六左衛門が作曲したと伝えられます。越後(新潟県)の名物、旅芸人の一座が、お国名物のおけさ踊りや、角兵獅子、布さらしなどの面白い芸を演ずるのを歌った曲で、当時流行の歌謡や、地歌の越後獅子などが巧みに織りこまれています。
 長唄の原曲は、日本的な旋律と歯切れのよいリズムが好まれて箏曲にも洋楽にも編曲され、和洋いずれの側にもよく知られた曲です。
 この編曲は、器楽曲として作曲したもので、序奏として、獅子舞の印象を描いた十七絃と尺八の独奏的な創作部分をつけ、一般によく知られている「五段返し」「さらし」の部分ばかりでなく「浜歌」や地歌の手事から組み入れられた部分なども加えています。三絃を軸にした箏、十七絃、尺八の合奏の厚みのある編曲です。 (1973年作曲)

 

〇双調七章

 双調(G)を基音(宮音)とした日本の音階、すなわち双調陰旋とよばれる音階を主調として書かれた純器楽曲です。箏曲の伝統的作品によく見られる段ものや、手事の作曲方式を踏襲していますが、一般の段もののように、何段何拍子というような固定した型や、段合わせができるというような制約なしに、自由に音階の美しさそのものをあらわしています。
 この曲は一九七二年八月に「七段譜」(雲井調子)として作曲、その後、低音箏との二重奏曲に改編、改題されたものです。

・長唄の編曲
 この3曲のなかで「虫の音の手事」(秋の色種)と「編曲長唄越後獅子」は長唄を原曲とした編曲で、編成は三絃、箏高低2部、十七絃、尺八の五重奏曲という共通点があります。
「虫の音の手事」の冒頭部分は、虫の音すだく秋の夜の雰囲気を意識したオリジナルで、この合奏部分が収まり、次に三絃から始まる静かな合奏が「秋の色種」の始まり。
 一方、「編曲長唄越後獅子」の冒頭では獅子舞のお囃子の笛のような尺八のソロに続く、力強い十七絃、尺八と十七絃の掛け合いは、聴く人の心を惹きつける出だし。

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大勢の合奏が映える舞台(2006年「春の公演」より ) *クリックで拡大


長唄からの編曲ものにはこのほか「京鹿の子娘道成寺」「老松」「小鍛冶」があり、私もこれに倣って「元禄花見踊」を編曲しました。
三味線が主体の音楽で歯切れのよい旋律が特色の長唄は、パートの多い編成の合奏に向いており、今後も合奏曲に取り上げたいものです。

・調絃
 どの曲も、双調(G)を主音とする陰旋音階で作られており、第一箏の調絃は、雲井調子です(一絃=D)。
第二箏は五絃をGとする平調子(双調陰旋音階)ですが、第一絃から五絃は階名で〈ラシドレミ〉となるよう一(C)、二(D)、三(E♭)、四(F)に合わせます。
 この調絃方法は宮城道雄作曲「さらし風手事」と同じです。
 なお、「さらし風手事」の高音箏は「四上り半雲井調子」(一絃=D)で、平調子から八絃を半音下げ、九絃を一音上げた半雲井調子から、さらに四絃を上げるので「四上り半雲井調子」と呼びます。(逆に言うと雲井調子から三の絃だけを半音上げて平調子の状態に戻したものです)
 「虫の音の手事」の第一箏では、この四上り半雲井調子が使われ、曲の後半では転調し八絃、九絃は平調子(壱越調陰旋音階)となります。(四絃は上がったまま)第二箏はこれに対応して、六・斗絃を半音上げ、七・為絃を一音下げて中空調子(八・九・十・斗・為・巾=壱越陰旋音階)となります。三絃は本調子から二上りへと転じます。
 「編曲長唄越後獅子」では、第一箏は雲井調子(一絃=D)、第二箏がこの〈ラシドレミ〉+平調子(五絃=G)の双調陰旋音階です。
 曲の途中で第一箏は、八絃(A♭→B♭)、斗絃(E♭→F)をそれぞれ一音上げて神仙(C)調陰旋音階に転調しますが、また元に戻り最後には平調子(壱越調陰旋音階)八絃(A♭→A)、九絃(C→B♭)に転調して終わります。三絃は終始、三下がりで調子替えはありません。
 そして「双調七章」も第一箏が雲井調子(一=D)、第二箏はこの変形平調子(五絃=G)。第二箏のみ六絃を半音上げ(A♭→A)ますが、第一箏は調子替えをしないで押し手で転調に対応します。陽旋律音階的、クロマティックな音の進行を半音、一音の押し手で使い分け、速いフレーズを弾く難曲となっています。
 この3曲、曲頭は、ほぼ同じ調絃法で作曲されていますが、途中の転調や三絃の調子が違うので曲調が異なり、それぞれの曲に違った魅力が生まれるのですね。 

 一朝一夕ではない作曲編曲の苦心に想いを寄せて、じっくりと合奏を味わっていただけたら亡き作曲者も喜ぶことでしょう。よい演奏を心掛けてお稽古に励みましょう!

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