各地の活躍 Vol.2 ~うたまくら348号より
各地の活躍 Vol.2 *写真はクリックで拡大
猛暑の夏から錦繡の秋へ
「清流の国ぎふ」文化祭 栗 山 美智子
古都金沢での‘23国民文化祭から引き継いだ、第39回国民文化祭「清流の国ぎふ」での「邦楽の部」は、邦楽各団体が個々に演奏会を開催するという形で進められてきました。
一方、岐阜市芸術文化協会が主催する子供たちの《夏休み子供文化クラブ》は、邦楽からダンス、茶道、ギターなど26の多彩な講座が揃えられ、「はじめてのお琴」にも15名の募集に30名もの応募がありました。
この子供文化クラブでは小学校低学年の参加が多く、祐子先生作曲「日本の四季」を教材に爪のはめ方から始めた練習も、最後にはトレモロも出来るようになり、合奏にトレモロをいれると、「満開の桜が花吹雪になって散ってくるようだ」と、付き添いの保護者の方たちから拍手が湧きおこりました。
お琴を弾きたいという子供たちが、きらきらと目を輝かせて熱心に楽しんで取り組んでいる姿に、その気持ちを大切に育てていきたいと思いました。
この子供文化クラブの経験を経て、岐阜県邦楽連盟が開催する11月のサラマンカホールでのジュニアの部「日本の四季」に出演する子供たちも何人か出ました。
時充ちて、9月1日は小島君代先生社中のゆかた会が野村云山先生をゲストに迎えられ、瑞穂市キラリホールでの開催となりました。
猛暑続きの7月、8月を乗り越え、厳しい鍛錬に励まれた社中の皆さまのご努力はいかばかりかと想像しておりましたところ、公演日の一週間前にして、伊勢湾台風に匹敵するほどの大型台風が東海地方直撃の予報が入り、その後、一週間も西日本から東海へと迷走を続け、開催の前日までどうなることかと、こんなにも気象情報に注目したことは初めての経験でした。
さて当日は、皆の祈りが通じて台風一過の晴天となり、全十二曲、新曲あり、古曲あり、大勢の合奏曲あり、渾身の独奏曲あり、師匠の期待を一身に背負っての力強い演奏に満たされました。
その間も、サラマンカホールでの合同練習は休むことなく続いており、四十数名のジュニア演奏に集まった子供たちの合奏には、準備も含めて大騒動でした。前述のとおり「日本の四季」の合奏に、琴を弾くのは初めての子供たちが殆どですから、指導者は汗びっしょり。そのような状況でしたが、それでも子供たちが最も自信をもって楽しそうに弾いていた手法が「裏擦り」と「ザザザ」(竜角を爪で引く)、横で聴いていて私もハッとしました。今まで何気に聞いていた音が、大勢で弾くとこんなにもインパクトがあるのだと気付かされました。
そして、合同練習を重ねるごとに少しずつまとまりも出てきました。
右から3番目栗山美智子さん
いよいよ11月になり邦楽連盟演奏会まで一ヶ月を切った11月4日、芸術文化協会主催の市民劇「道三の半生」が国際会議場ホールで幕開けとなりました。
役者、声楽、合唱、洋楽、邦楽、洋舞、日本舞踊等、スタッフ合わせて三百人余という大所帯、「劇団はぐるま」の浅野公蔵氏書き下ろしによる斉藤道三の半生を描いた作品で、実に二年間の歳月をかけて作り上げた本格時代劇。私どもお琴グループは何と六名(そのうち正絃社四名)、津軽三味線、オーケストラ(岐阜県交響楽団)とともにオーケストラピットの中。前日のゲネプロから当日午前中のリハ、熱演の本番まで、緊張の連続でした。今回のために大阪から招かれた指揮者・井村誠貴先生の指摘された沢山のアドバイスが心に深く残っております。
それはいつも祐子先生が折りにふれて仰っている言葉と同じだったからです。例えば「息をしながら演奏しなさい」とか。
さてこれにて、やっとサラマンカホールでの演奏会に集中出来ることとなりました。
これまでの邦楽連盟公演での経験から、やはり野村峰山先生の演奏を聴きたいというお客様の声が多くありましたので、小島君代、水野あい子両先生と一緒に、祐子先生のお稽古に伺った折、皆でその旨をお願いしました。正絃社の出演曲「秋の歳時記」には尺八の独奏がないので、峰山先生に特別に尺八のソロ部分を作曲していただくようお頼みしました。(実は前回の「令和福寿楽」の折にも尺八ソロをお願いしたところ、尺八関係の方々に密かに評判になっているようです。)
迎えて11月24日演奏会当日、サラマンカホールは開場と同時に満席になり、お客様の期待感が舞台裏にもひしひしと伝わって参りました
正絃社「秋の歳時記」はプログラム一番です。ホールには緞帳が無く、暗転とはいえ袖から舞台へ出て座るまでお客様の前なので、足の運び、姿勢にも全神経集中です。
岐阜正絃社「秋の歳時記」
小島先生の合図で第一楽章【菊人形】の演奏が始まります。
~「信長は仕立ておろしの菊衣」信長の傍らには正室帰蝶、光秀の姿も、戦国の世を必死に生きた武将たちが華やかな菊衣を身にまとい、恩讐を超えて今舞台に立っている~
そんな情景を描かれているのでしょうか。荘厳と華やかさがあいまって、曲の舞台は、第二楽章【お月見】へと移ります。
今年の秋はスーパームーンを見る機会がありました。「月にむら雲、花に嵐」とは言いえて妙、本当に黒雲に隠れてしまうのです。もう少しもう少しと待っているときのときめき、「少し黒雲がどちらかに動いてくれればね。」なんて期待したりして、弾いていると情景が目に浮かびます
そして第二楽章が静かに終わるとスポットライトの中で峰山先生のソロが始まります。暑い夏を越えて訪れた秋、凛と身の引き締まるような冷涼な朝の空気を感じさせる、柔らかく研ぎ澄まされた音色に客席は静まり返ります。
友人は峰山先生のソロを聴いて、
「心あてに折らばや折らむ 初霜のおきまど
わせる 白菊の花」
の歌を連想したと、感動して話してくれました。
第三楽章【豊年祭】、威勢よく元気に終曲へと向かいます。最後は段々に照明を落としてもらう演出となりました。
プログラムの中ほどでジュニアによる「日本の四季」。子供たちばかり46名もの出入りにどれだけかかるかと心配でしたが、回を重ねた練習の成果か、静かにスムーズに出入りできました。
ジュニア合同曲「日本の四季」
最終曲は、25年前の国民文化祭で作曲演奏された、岐阜の清流と緑を題材にした『山河緑照』、邦楽六団体による合同演奏で幕を閉じました。これは圧巻の壮大な演奏と翌日の岐阜新聞にも大きく報道されました。
岐阜新聞に掲載
この後、12月1日は岐阜市文化センターホールでの市民芸術祭に正絃社として出演、翌々週15日にはまちかどコンサートと、まだまだ挑戦と感動の日々は続き…、頑張ります。
(大師範・岐阜市・伊吹町教室主宰)
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留学生の箏曲体験授業 鷲 法子
暦の上では立冬を迎えた昨年11月8日、家元野村祐子先生が箏・三絃の授業に出講されている名古屋芸術大学では、留学生別科の「日本事情」体験教室にて箏の授業が行われることになり、講師の助手として私の師・野崎緑先生と佐野亜子さんとともに留学生の指導に参加しました。
鷲法子さん
留学生24名の出身国は中国、ネパールなど東南アジア系の学生さんたちですが、日本語の勉強のために来ていますので言葉は日本語が通じるので安心です。
授業は9時開始、その前に人数分の楽器を準備、調絃は「さくら」が弾けるように平調子に合わせます。
貸出用の琴爪をおおよそ大中小の大きさに分けて、学生たちが自分の指に合った琴爪を早く選べるように並べます。実は、以前の体験授業では琴爪選びに時間がかかったので、スムーズにサイズを合わせられるように分類して学生を促します。
さて、学生たちがそれぞれ箏の前に座り、いよいよ授業の始まり。まずは、祐子先生が箏について説明し、「六段の調べ」「さくら」を演奏。学生たちは「ほおー」と頷き顔ですが、4百年ほどの箏の歴史をこの僅かな時間で理解できるとは思えないものです。それよりも実践でさっそく「さくら」の体験、私たちは留学生ひとりひとりに手取り足取り、「さくら」を指導して回ります。
祐子先生の説明を聞く留学生たち
留学生の指導に回る野崎先生
テキストには、普段、お稽古で使っている「小曲集№1」に掲載の「さくら」よりもさらに簡単な「さくら」の譜面が、日本語の勉強のためのテキストとして担当教授から予め配られており、留学生たちは数字を理解しているようですが、いざ実際に楽器に触れると13本の絃を数えるのに苦戦していました。なかには説明と模範演奏を聞いてすぐに弾ける音感のよい留学生もいました。
アジア地域には日本の箏に似た楽器もあり、箏には親しみやすいようです。日本の陰旋音階からできている平調子は日本独特の音階ですが、「さくら」を楽しんで歌ってくれました。こうして日本の文化に親しみを持ってそれぞれの国に帰った学生たちが、将来また日本との友好な交流に役立ってくれることを願い、貴重な体験ができたことを嬉しく思いました。
(津島教室主宰・大師範)
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第45回関西邦楽作曲家協会作品発表会
12月第一土曜日恒例の表記演奏会(大阪・朝日生命ホール)で、名古屋から家元・倫子補佐はじめ木蓮の会、正絃社合奏団有志が大阪教室(野村倫子指導)メンバーを応援。太鼓を入れ賑やかな合奏「子どものための嬉遊曲」と「鵬よ」を演奏。昨年から復活した打ち上げも盛り上がりました。
カラフルな衣装で「鵬よ」
- 2025.02.25