夏草の賦 - 正絃社

夏草の賦

【1974年 野村正峰作曲】

絃の三つの声部に対して、管がまたあたかも三声部のごとく配され、きわめてポリフォニクに構図され、さらに笙の合竹と小鼓の早渡りも加わって、パノラマの ように繰り拡げられる。能楽を想わせるような開始、次いで予感に膨らむ舞踏的情景の音場は、次第に長唄のイディオムがいっぱいの賑々しい合奏になり、巡り めぐって最後は、雅楽のような雰囲気で終わっていく。
はじめて東北へ作品講習の旅をし、松島、平泉などへ足をのばしたときの感懐。藤原三代の栄華の一端を残す中尊寺の金色堂の豪華さに比べ、伽藍の礎石と池を残すだけの毛越寺庭園で松尾芭蕉が詠んだという「夏草や 兵どもが 夢の跡」の句を肌で感じたものがこの曲。
歴史の解釈は時代によって変わっていきます。さしも三代の栄華を誇った奥州藤原の文化圏は、源頼朝率いる関東武士団によって夢のあとと化したわけですが、金色堂に代表される中尊寺だけが何故焼かれずに残ったのでしょう?謎は深まるばかりです。
人の力の抗するすべもない時代の流れ、押し流された人たちへの哀惜の思い、それが詩を生み、音楽となり、新しき良き時代への渇望になります。

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