紫の幻想 - 正絃社

紫の幻想

【1969年 野村正峰作曲】

あかねさす 紫野ゆき 標野ゆき
      野守は見ずや 君が袖振る(額田王)
 紫の 匂へる妹を 憎くあらば
     人妻ゆえに われ恋ひめやも(大海人皇子)

万葉集巻一に載せられた、この二首は、額田王と大海人皇子との相聞歌で、天智天皇が、蒲生野(滋賀県)に遊猟されたときの御歌として伝えられています。
額田王は、はじめ大海人皇子の妃でしたが、のちに天智天皇の妃となりました。大海人皇子との間に歌われたこの歌には、古代人のおおらかな愛の告白のなかに、揺れ動く微妙な心の動きが感じられます。雄大な標野(天皇の狩猟用の御料地)に、一行が駒を進める情景、紫草(根を紫の染料とするが花は白)の咲き乱れる草原に交わされる、お二方の心の交流を箏・尺八の二重奏に描いた作品です。

箏の調絃には、第六絃を主音とする陰旋音階の上行形を用いて、古来の音階のなかに新しさを意識した曲です。

このページのTOPへ