水郷のうた - 正絃社

水郷のうた

【1989年 野村正峰作曲】

豊かな水資源に恵まれるわが国では、全国各地に水郷といわれる、独特の風物があります。
この曲では、関東平野に広がる利根川がもたらす千葉県北部の水郷を取りあげ、感興をそそられる多くの素材を、四つの楽章に描きました。

第1楽章  悠々たる大河、緑したたる大地  牧歌風なのどかな風景。大利根は、緑の多い大地を縫うように、悠々と流れてゆきます。江戸時代には、物資を運ぶ主要交通路として高瀬舟で賑わったことでしょうか。
第2楽章  渡し舟のある風景  治水で変更された流域では、同じ行政区画の村落が大河で二分されてしまいました。
村人たちは、分割前の生活を変えずに、対岸への学童の登下校、職場への通勤、役所への往復などに、大廻りになる橋を渡らず、渡し舟を使います。渡し舟、舟小屋、船頭さん、昔懐かしい日常生活の風物が、今も残っているのです。
第3楽章  置き忘れられた大河  前章のような流域変更では、屈曲した大河が広大な沼地として残され、この置き忘れられたような大河の周辺には、独特の植物が繁茂し、そこのみに生息する蝶さえも見られるといいます。西の方遥かには、稀に富士山も借景でき、独特の素晴らしい景勝の地です。沼の岸に、沈みかけた腐朽の小舟をみつけ、生々流転の動きの停止した静謐さを感じ、胸が締めつけられました。
第4楽章  沼の祭典 志賀直哉、武者小路実篤など、多くの文人がこのほとりに住んでいました。広大な手賀沼は、緑の田園地帯とマッチして、豊かな詩情に溢れる眺めで、我孫子市の象徴になっています。水の祭典はやはり夏、快活で民謡風のメロディとリズムで、この曲を締めくくりました。

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