組曲きたぐに - 正絃社

組曲きたぐに

【1972年 野村正峰作曲】

組曲の構成をとり、尺八と箏二面と十七絃の四重奏によって、冬の雪国のドラスティックな情景を、四つの小曲に分けてボエティカルに投影させる。
曲調は、暗から段々と明に移り、光を増す。
第一曲<吹雪の海>が、いきなり十七絃の低く重い音の運びに先導されて、尺八の這うような旋律が不安を駆りながら流れ出す。日本海の荒海の波しぶきを想わせる躍動的な楽想が、後半に展がる。
第二曲<雪の山寺>は、尺八と十七絃だけの二重奏だが、永平寺らしい伽藍から、冴えた冷気のなかをさまざまな声や音が洩れ響いて来る。種々の間が置かれ、運びも5/4~ 3/4~ 7/4~ 5/4~ 9/8~ 6/8~と頼りに変わる。
終わりは、次ぎの第三曲<街の夜>のイントロダクションとなり、何やら愉しげな気分に変わっていき、第四曲<残雪の道>では、春の陽光がしだいに活きいきとした動きを誘い出す。

暖冬のこのごろ、きたぐにイコール雪国というイメージに結びつかなくなりましたが、冬、日本列島のどこかで、この曲に描いたような情景が見られます。

その1 吹雪の海
空と海との境もさだかでないほどに、雪雲が低く垂れ込めた暗い海、おおいかぶさってくるような重苦しさの中に、吹雪の白さと、岩を噛むはげしい波の白さが印象的。
その2 雪の山寺
鬱蒼たる千古の樹林、森閑とそびえる大伽藍、案内の僧の吐く息も凍りそうな寒さ、修行の僧の読経の声が低くひびいてくる。ときを知らせる魚盤の音が、しじまを破って広い雪の底に吸い込まれていく。
その3 街の夜
雪で街道が閉ざされたのか、街はひっそりとしてゆき交う車も少ない。時おりチェーンを引きずって走る車が、そりの鈴の音のような余韻をのこしていく。
その4 残雪の道
路肩にはまだ泥まみれの雪が残っている。でも山々の雪は日の当たるところがまだらにとけて、そこだけが忍び寄る春の気配を感じさせる。長いきたぐにの冬もようやく終わろうとしている。太陽はやわらかな光をふりそそぎ、風は春の香りをのせてやってくるようだ。

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