あけぼの - 正絃社

あけぼの

【1990年 野村正峰作曲】

春は、 あけぼの。 やうやうしろくなりゆく山ぎは、
     すこしあかりて、
         紫だちたる雲のほそくたなびきたる・・・・

文学少女ならずとも、現代も高校の国語の科目の中で、避けて通ることのできない古典のひとつが、清少納言の著作「枕草子」であり、そこでは、この詩のように美しい短文がまず冒頭に出てきます。
左様、この私の作品は、約千年昔の王朝時代、清少納言が、春の中で一番素晴らしいものは、何といっても「これ」、と推奨を極めた「あけぼの」をえがいてみたいと意図したものです。清少納言は、身分の低い官吏の娘から、その才能を認められて抜擢され、定子皇后の側近に仕えることになりました。それだけに、著作の随所に、高貴の人たちのみが用いることの出来た、「紫」や「白」の色への憧れの心が見えかくれします。この冒頭の「春はあけぼの」の章にも、まずその白と紫が出て、これが作曲のあいだ中、気になってしまうのです。
王朝時代の日本人の音楽的感性は、雅楽の古譜のようなものから、漠然と想像するほかはありませんが、少なくとも、中国とか朝鮮半島から渡来した異国情緒の音楽が、まだ確然と日本化しないまま、流行していたと思われます。
この曲は、これらさまざまな想念とともに、音階を特定せず、基本的には陽旋音階でもない、陰旋音階でもない、しいて言うならば、 上行も下行もない自由な陰旋音階とでも言うような音階で、何となく古典的ムードで、手軽に合奏できる曲に書きあげてみたものです。

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