冬の歳時記 - 正絃社

冬の歳時記

【1999年 野村正峰作曲】

第一章 柊(ひいらぎ)の花
父母と暮らした家の思い出より。庭の一隅に植えてあった柊は、ギザギザの刺のような厚手の葉が、子供心には恐いように感じられたが、初冬の頃にな ると、何時の間にか白い花つぎつぎと咲き、花びらがまた地面いっばいに散りしき、香ばしい香りがしていた。節分の頃だろうか、柊の小枝を鰯の目玉にさし、 門口にかけておくのが「鰯の頭も信心から」といわれる厄除けのおまじないだが、私の家にはそういう習慣はなかった。ただ、いつも緑側から眺めた、夜目にも 白い花の思い出が、五十年もたった今、鮮明に蘇る。
第二章 虎杖笛(もがりぶえ)
若いころは冬がほんとうに寒かった。スイッチひとつで暖房がつく時代ではなからた。よほと恵まれた人以外は、外出に車は使えず、厚手のオーバーの 襟を立てて、街を足早に歩いた。うらぶれた後姿を冷たい風が吹き抜けた。葉の落ちてしまった高い梢、電柱、電線までもが悲鳴のような音をあげて丸めた背中 に襲いかかった。今でも、時おりこれを聞く日もあるが、人は、もがり笛という表現を知らない。
第三章 団欒(だんらん)
核家族化社会では、寒い冬の夜、一家がそろつて鍋物をつつき、他愛もないおしゃぺりに楽しい時をすごす習慣は稀になった。しかし、そういう生活が日常的たった頃の思い出のある人のためにこの一章を加えることにした。
第四章 銀嶺のかなた
俳句の歳時記にこういう季語はなかった。しかし銀嶺イコール雪山を考え、あえてこのタイトルを最終の章とした。何が銀嶺の彼方なのか?これは曲を鑑賞していたたくかたの自由な詮索におまかせしよう。

 

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