各地の活躍 ~うたまくら332号より - 正絃社

各地の活躍 ~うたまくら332号より

各地の活躍

「阿吽―ハムレット奇譚」出演記              伊藤 洋子

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(写真・伊藤洋子)

コロナウイルス禍により二月から延期になっていた「阿吽ーハムレット奇譚ー」公演は感染防止対策のため、無観客としての開催に踏み切り、10月2日、ビデオ収録が行われました。
上映方法は、有料映像配信またはDVDでの鑑賞です。
一昨年前から立ち上げられたこの演劇公演は、有名なシェイクスピア作品を邦楽演奏とのコラボで演出する企画(演出・丸蟲御膳末吉、制作・ 長谷川侑紀)です。コラボレーションは、箏曲だけでなく、尾張万歳(劇中劇にて尾張万歳をご披露)、和太鼓(場面転換で和太鼓の音を一発鳴らす、芝居の間はずっと動かずに立ったまま、その忍耐力に圧倒)によって創られています。世界にただひとつの独特の演出です。

あの日~本番を一週間後に控えた通しリハーサルの日~を振り返ると、(まだマスクもフェイスシールドもない平和な練習でした)未知のウィルスが中国で広がっているというニュースが話題となっていたことを覚えています。そして数日後には緊急事態となり、公演中止延期の連絡、前代未聞の事態に怯える毎日が始まりました。「不要不急の」と定義付けられた行動が止められた2カ月余りの自粛期間。ようやく延期の公演開催日が決定し、役者さんたちの練習が再開されました。

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緊急事態宣言発出以前の練習にて


マスク、フェイスシールド着用の役者さんたちは、コロナに負けず熱い練習を重ねられていました。台詞が多く、動作もあり、どうやってあのように長い台詞を覚えることができるのかと驚くばかり、台本を見ているだけで脳の活性化の刺激になりました。
一方、演奏の私たち5名も役者さんたちと同様、延期後の練習にはフェイスシールドやマスクを着用して参加しましたが、練習会場での密を避けるため、練習風景のビデオに合わせてのリモート練習を主にして、実際の芝居に合わせる練習回数は少なく、不安の多いまま日が過ぎました。
延期のために長期化した練習期間には、またまた、いろいろな事情が発生し、演出の変更、役者降板など苦難の道のり。本当に本番ができるのかと心配しながら、迎えた無観客公演日でした。
東文化小劇場の舞台には「阿」と「吽」の文字が大きく描かれ、篝火が揺らめいていました。シンプルな舞台設営で心象風景を印象付ける設営に、役者さんたちの力量が求められる狙いが見てとれ。私たちの演奏にも強い責任を感じました。

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「阿」「吽」の舞台


3時間近くにもなる長編芝居ですので撮影は9ブロックに分けられ、少しずつ休憩できます。
ビデオの収録ですから、もし失敗があっても撮り直しができるとはいえ、誰しも自分のせいで全員に迷惑をかけてはいけないという緊張感で会場はピリピリ。
実は、役者さんたちのなかには、前日のリハーサルまで片手に台本を手にされていたかたもありました。それが、本番までには台本が手から離れ、約二時間半の芝居を覚えられたのですから「すごい!」
暗譜に苦労をしている自分が恥ずかしい思いでした。
さて、撮影が始まる前に、出演者全員集合の声がかかりました。私たち演奏者も舞台に集合、円陣を組んで声を揃えて、
「頑張ろう。ハムレット!」
気合を入れたエールに、心がひとつになりました。

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円陣を組んでエール


いよいよ本番収録。
客席側からのカメラが4台、目に入りました。のちに完成したビデオでは、何と舞台の真上からの映像もあり、客席からだけでは見られない、録画ならではの視点は感動モノ、そんなところにもカメラがあったとは・・・。
さて、今回のハムレット演出の最大の特色は、舞台真ん中の巨大シーソー。
このシーソーの傾きで役柄の心の動きを表すのですが、練習をみていても、巨大シーソー上の移動は危なげでバランスをとるのは至難の技。この上を行ったり来たりしながら台詞を言うのですから、他人事ながらシーソーのバランスに気を取られて台詞を飛ばしたりしないかとハラハラドキドキ。

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巨大シーソー

幕開けの曲は「弥勒」。昨年のNHKTV「にっぽんの芸能」でも演奏した正峰先生の壮大な作曲は、この悲劇の始まりを荘厳に導きます。
野崎先生の重々しい十七絃の音が静かに響き、シーソーの上に並んだハムレットとクローディアス、レアティーズの主人公3人が暗闇のなかから浮かび上がり、嘆きと苦悩が強い言葉で発せられます。
ハムレットに「弥勒」がマッチする取り合わせが何とも不思議です。これから何が始まるのかと、きっと視聴者は目を惹きつけられていくことでしょう。芝居の展開が解ってきた私たちでも胸がドキドキする幕開けです。

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ハムレットとレアティーズの対決

それぞれの場面に合わせて選んだ曲は「炎の舞」「初春の調べ」「胡笳の歌」「沈影」「美吉野」「炎」「紫の幻想」などの正絃社オリジナル、これに加えて祐子先生作曲のオフィーリアの歌、ダンサーの歌(ダンサー降板のため私たちが歌うことに変更)などでした。
ところで、私たちの演奏場所はオーケストラピットに相当する場所なのですが、舞台上の役者さんたちの台詞が聞きとれず、祐子先生がイヤホンで芝居を聞き、舞台を見ながら演奏個所を調整して、私たちに演奏の合図をするという劣悪な状況でした。
しかも、舞台が暗転になると、私たちの演奏場所も照明を明るくすることができないので、譜面台には譜面灯をつけてもらいましたが、充分な明るさではなく、楽譜を追いかけるのに必死の面持ち、調絃を変えるのにも苦心しました。  
普段の演奏と違って、役者さんの語る速さで演奏を止めるタイミングが変わるなど、いろいろなハプニングもあり、貴重な経験でした。

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緊張の演奏

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尾張万歳コラボレーション


順調に舞台も進んでいきましたが、後半部分は台詞が多く、祐子先生曰く、
「演奏のない場面が寂しいよね。」と、本番一発勝負のアドリブで演奏挿入。台詞を邪魔せず、効果的に音を入れられ、劇も一層盛り上がりました。役者さんたちからも、
「箏の音が入って気持ちよかった。」と、大成功、さすが祐子先生!
「洋」の演劇に「和」の箏曲、尾張万歳、和太鼓で、ハムレットを和風にした異色のコラボレーション。あらすじを知っていても理解し辛いハムレットの物語が、間近で役者さんたちに演じられ、登場人物像がよくわかり、あらためて興味深く、シェイクスピアの世界を楽しむことができました。
このようにし出来上がった素晴らしい映像作品「阿吽―ハムレット奇譚」です。
コロナ禍を乗り越え、何としても成功させたいという気迫が画面に映っていることでしょうか。苦労を乗り越えたDVD完成の喜びはひとしおです。
ぜひ、DⅤDをご視聴いただきたいと思います。   (幹部会副会長) 

※阿吽―ハムレット奇譚:舞台写真撮影は、 柴田義安氏によるものです。

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「2020時をめぐり、文化を旅する、まちの祭典」
  やっとかめ文化祭 芸どころまちなか披露にて箏曲演奏を配信

名古屋市による開催の「やっとかめ文化祭」においても、コロナ禍のために、昨秋、ユーチューブ配信として開催されました。
正絃社からは「芸どころまちなか披露」にて「愛と祈りの調べ」「ふるさとの風」を演奏。
11月15日、ビデオ録画演奏がオンラインにて配信されました。

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カブキカフェナゴヤ座にて 

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第11回峰の会 「地歌箏曲演奏会」

コロナウイルス第3波が心配される昨秋でし
たが、11月29日、新大阪駅至便の大阪市立青少年センターココプラザ「エクスプレス・ココ」ホールにおいては、菊重精峰先生ご社中「峰の会」による「第11回地歌箏曲演奏会」が開催され、家元が特別ゲストとして出演。
多くの演奏会が中止、延期となるなかで感染対策に則り決断された開催でしたが、間際の急激な感染拡大状況となり苦難の当日を迎えました。
受付では、来場者は手指消毒の上、プログラムは各自で取り、客席はソーシャルディスタンス。会話もなく終始しんとした客席は、出入りの扉を常時開放、出演者は舞台でもマウスガード着用の厳重警戒体制のなか、無事終了しました。

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ソーシャルディスタンスの客席

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マウスガード着用の舞台


菊重精峰先生は正絃社にても合宿のご指導や、メインイベント「春の公演」へのご出演などでご活躍は周知のとおりですが、楽しくユニークな作曲が大人気の関西在住の地歌演奏家でいらっしゃいます。
菊重精峰先生の作曲を主にしたプログラムの中に、家元作曲の「夢はマーチにのって」「愛と祈りの調べ」「兎と亀」の3曲が織り込まれました。コロナ禍で落ち込んだ気持ちを励ます選曲、兎(家元)と亀(菊重)の掛け合いは観客の心を和ませて、ソーシャルディスタンスで寂しげな客席が楽しいムードに包まれました。
邦楽の発展とご社中のますますのご活躍をお祈りいたします。

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菊重精峰先生と家元

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創作舞踊劇
名古屋城天守物語~黄金渦巻く姫君たちのミステリーロマン~

名古屋のシンボル名古屋城の物語を異分野の交流で上演する左記公演が行われました。

  日 時 令和2年12月12日(土)13日(日)
      13時・17時開演(開場は30分前)
  会 場 名古屋市芸術創造センター
  主 催 芸術集団「創の会」
  制 作 「名古屋城天守物語」制作委員会
  企画・制作 五條園美
  脚本・演出 伊豫田静弘
  出 演
  (日 舞) 工藤寿々弥 稲垣舞比 五條園千代
        花柳貴人生 内田るり千鶴ほか 
  (洋 舞) 神原ゆかり 牧村直紀ほか
  (演 劇) 大嶽隆司 いのこ福代
  (演 奏) 常磐津綱男 杵屋三太郎
        杵屋六春 望月左登貴美
        野村祐子 野崎緑 佐野亜子
        野村峰山ほか

公演の様子は次号にてのご紹介になりますので、練習風景をお送りします。

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練習にて

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