各地の活躍 ~うたまくら335号より - 正絃社

各地の活躍 ~うたまくら335号より

各地の活躍

芝居小屋「長栄座」 夏のフェスティバル
長栄座伝承会 むすひ ~東西を結び 刻を結び 乾坤を結ぶ~
 
 10周年を迎えた長栄座では、新しい企画のもとに7月31日、8月1日の二日間、右記タイトルの公演が開催されました。詳細は次の鑑賞記をご覧ください。

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今回のプログラムに掲載された過去のプログラム

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長栄座鑑賞記      石 原 未祐己

 8月1日、夏真っただ中。
米原市の滋賀県立文化交流会館では、長栄座10周年公演「長栄座伝承会 むすひ」が開催されました。コロナ感染も過去最高を更新されている中で心配ではありましたが、祐子先生の新作も聴けるということで、先輩の鈴川悦代さんとご一緒に出かけました。
 会場入り口では、今では当たり前となっている消毒と体温チェックを受け入場。着席すると同時に司会の方のお話が始まりました。
「長栄座伝承会むすひ」の〝むすひ〟は、東西の和と洋を〝結び〟、今と昔の刻を〝結び〟、天の神と地の人間の乾坤の〝結び〟をテーマとして、多彩な出演者が一堂に会する贅沢なプログラムとの解説で、ますます期待が高まります。 
 会場は、まさに江戸時代の芝居小屋を再現するかのように作られて、歌舞伎座のような黒・柿色・萌葱の三色の定式幕が閉められていました。

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三色の定式幕

 しかし、その幕が開かれると、波の背景をバックにしてハワイアン・フラの艶やかなお姉さまたちが立っており、演奏には箏・十七絃・尺八の演奏者が並んでいました。
 プログラムタイトルは「箏が奏でるハワイアン・フラ~空と大地を巡るうた~」とあり、遠く離れたハワイと日本を〝結ぶ〟プログラムでしょうか。
 演奏者は肩から南国情緒のある布地を纏い、頭上には葉でできた輪(マラソンの優勝者が被る月桂樹の輪のような)を深々と載せて、顔はあまり見えません。予想外の舞台にあっけに取られていると、かすかに箏の音が…。
カタカタ・ザザッ・シュシュッ・サラサラ・・・。
 これは波の音? 海鳥が鳴くような?

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波の背景でハワイアン・フラと邦楽の共演

 客席は次第に南国へと導かれて行きました。箏の音にのって舞うフラダンスはとても静かで緩やかで優しく、観る前は、
「フラとお箏って合うの?」
「どんな舞台なんだろう?」
と、半信半疑でしたが、何の違和感もなく、フラの人たちが持つ「イリイリ」というカスタネットのような  楽器が妙にお箏にマッチして、とても心地よい気分になりました。

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神々しいフラダンス

 箏・十七絃・尺八の編曲はゲスト出演の竹澤悦子先生。従来のお箏の技法ばかりでなく、左側を鳴らしたり叩いたり、フラダンスの雰囲気に合わせた、いろいろな技法が駆使され、尺八演奏も長短の尺八を持ち替えられて、音色の変化があり、見た目にも楽しいパフォーマンスステージでした。

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何種類もの尺八

 演奏者は、十七絃に竹澤悦子先生、箏に祐子先生、尺八ゲスト川崎貴久さんのほか、毎年恒例の長栄座公演のために練習を積み重ねている滋賀県邦楽専門集団「しゅはり」の皆さん。
 「しゅはり」メンバーの中には正絃社会員の方も入っているのですが、頭には髪飾り、顔にはフェイスシールド、いつもとは雰囲気の違った洋装なので、どなたが誰か解りません。演奏が終わってから、同行の鈴川先生と、誰がどこに座っていたのかと答え合わせ(?)をした程ですが、幕開け一番のフラと箏のコラボは、とても新鮮な舞台でした。

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マウスガードをつけて出演の舞台

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フラダンスとしゅはりの皆さん

 第一部2番目のプログラムは小唄で~四季に綴る芸の連なり~。
出演の田村てる先生は、小唄田村派四代目家元でありながら、「二世清元紫葉」という芸名もお持ちで清元節三味線方も継承されていらっしゃるとのこと。日本の四季を表現する四曲を、解説を交えて演奏してくださり、小唄に馴染みのない私でも、なるほどと解りやすい解説でした。
 後日、祐子先生からお聞きしたのですが、小唄の田村てる先生は、祐子先生と育成会※の同期で、この再会を喜び合ったそうです。
『育成会で同期といっても三味線の方々とは交流がなかったのですが、小松さん(旧姓)はその当時から、清元のお家元に見込まれて嫁がれるとか噂されていて、とてもお綺麗で優秀な方でした。』

※NHK邦楽技能者育成会=NHKにより、現代邦楽の演奏者育成のために昭和30年から行なわれた講座で、邦楽理論、五線譜での演奏法などが指導された。20年程前、義務教育に邦楽が取り入れられてから、音楽大学での邦楽コースが普及して、現代邦楽の学習機関が増えたことなどから、育成会は第55期を以って閉会となった。因みに幹人さんは最終55期卒業。

 話は脱線しますが、育成会40期卒業の私にも、顔見知りの同期はいないかしら、とプログラムをめくりますと名前がありました!
 第三部のコラボレーション「響鳴」箏・唄に出演の佐々木千香能さん、同期の素晴らしいご活躍を誇り高く思います。

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プログラムに並ぶ数々の出演者

 さて話はもとに戻り、続いてのプログラムは、箏とインドの伝統楽器シタールによるコラボレーション「箏とシタールによる舞曲MYOUON」。
 インドのタブラーという打楽器も加わり、お箏は先ほどの竹澤悦子先生。何やら聞きなれたメロディ…「六段の調べ」が流れ出し、そこへシタールの神秘的な音色(何だか共鳴音が雅楽の笙に似てますね)と、タブラーの軽妙なリズムが箏のメロディを壊さないように融合する不思議な世界。
「えっ、これがいつも弾いている六段?」
 即興も加えられ、後半は激しく早く、箏の間合いに絶妙に入るシタールとタブラーによって古典六段の思いがけない展開を見せられたようで衝撃を受けました。この「妙音」にのって、舞台の後方の高い台の上ではモダンバレエダンサーがしなやかな姿で浮かび上っていました。

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祐子先生と竹澤悦子先生(右側)


 プログラム4番の落語の後、休憩を挟み、第二部はいよいよ祐子先生の新作で、「駅名連歌 まいばらはつ~琵琶湖線各駅停車京都行き~」です。どんな曲が始まるのか、楽しみです。
 演奏直前、定式幕の前での司会者の呼び込みに応えて、祐子先生が裃姿で登場。裃の胸には「亀」の紋が入っています。
 祐子先生は、ご挨拶で、
「この曲の中で「多聞」と名づけられた老亀役の演奏をするので、衣装も合わせました。」
と、この新曲への意気込みが伝わってきます。
 新作初演「多聞(亀)の電車旅」は、何と3年がかりの企画で、1回目の今年は老亀「多聞」が米原駅から終着駅京都まで、行きはのんびりと各駅停車の電車旅、帰りは新幹線「こだま」に乗って米原へ帰る、という琵琶湖線の旅。
 米原・彦根・南彦根・河瀬・稲枝・能登川・安土・近江八幡・篠原・野洲・守山・栗東・草津・南草津・瀬田・石山・膳所・大津・山科・京都20駅+序章で計21曲、気の遠くなるような曲の数です。箏・三絃・十七絃・尺八の合奏に加えて児童合唱も入るとの作曲・・・、想像がつきません。さぞや、ご苦労の多い作曲だったことと思い巡らされます。

 祐子先生のインタビューは続けられて、
「普段の作曲の際には、その地を訪れて感じたものを曲にと心掛けているのですが、このごろのご時勢では旅行も躊躇われます。そこで、現代の文明の利器・インターネットで名所名跡巡りをして作曲の構想を温めました。」
 さらに司会者から聴き処は、ときかれると、
 「今回、私は三味線を演奏しますが、三味線にはいろいろな種類があります。普段は地歌三絃という中くらいの太さのものを使っているのですが、この曲では、義太夫節に使われる太棹三味線でお爺さん亀役をいたします。」
と説明され、地歌の撥と義太夫三味線の撥を比べて見せてくださいました。

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地歌と義太夫の撥比べ

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地歌の駒と義太夫の駒

 さて、幕開けは、薄暗い舞台の中から太棹三味線が聞こえ、スポットライトが演奏者を浮かび上がらせると、祐子先生の低い歌声が響いてきました。いよいよ「老亀・多聞」の旅の始まりです。
 舞台上手側には地元・長浜少年少女合唱団「輝らりキッズ」、下手側に箏・十七絃・三絃の「しゅはり」メンバー、尺八・川崎貴久さん。

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「まいばらはつ」舞台準備中の合唱の子どもたち

 そして背景には、舞台一面に駅名や各駅にまつわる名所名跡の映像が映し出されていきます。彦根駅ではキャラクターひこにゃんの映像も登場、それぞれの歌詞も映し出されるので、演奏とともに見ても聴いても飽きません。
 駅名は全駅が筆で書かれており、滋賀県の学校の書道クラブの募集から選ばれた書とか、単なる駅名にも味わいが感じられます。そういえば、会場入り口に、駅名の書が展示してあったのですが、なるほど、これだったのですね。

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駅名の書の展示

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プログラムを飾る書

 「老亀・多聞」の旅立ちの歌に続いて、「しゅはり」の合奏が始まると、子どもたちの合唱が加わりました。
♩ガッタンゴトゴト~、一緒に口ずさみたくなる親しみやすいメロディです。小学校1年生から高校2年生生まで25名が息もピッタリ。
 「次は南彦根~、次は南彦根~」
と、車掌さんの掛け声も、子どもたちが声を揃えてアナウンス。
 米原駅から稲枝まで5駅が歌われました。
 能登川駅では、再び祐子先生の太棹三味線の歌、安土駅では力強い十七絃と尺八でしゅはりのお二人のデュエット、そのうちのおひとりは正絃社の佐野亜子さんです。舞台袖からキッズ舞踊も登場しました。
 次の駅は何かな・・・、と、男性の声で駅名が・・・、何と尺八演奏の川崎貴久さんまでもが車掌さん役(笑)
 野洲駅まで、「しゅはり」の歌と演奏、キッズ舞踊、舞台背景の映像と見処が多くて忙しい(笑)
 「しゅはり」の演奏では、箏、三絃の演奏者が代わる代わるソロを担当され、箏には岩瀬直子さん、水野優子さん、三絃に川勝ももこさんの正絃社メンバーも見えます。それぞれの駅の雰囲気を出されていました。

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しゅはりの皆さん

 そして、祐子先生の威勢のよい掛け声で、守山駅から再びキッズの歌。「しゅはり」とキッズの掛け合いも和気藹々。
「次は栗東、栗東に停まります~」
すると、尺八が奏するメロディは競馬のファンファーレ! 
客席からクスクスと笑いが! 
「♩パッカパッカパッカパッカ♩~」
 栗東は競馬の馬で有名なのだとは、初めて知りました。
 草津駅では、どこかで聞いたことのあるメロディ・・・、♩〇〇で酒が飲めるぞ~、日本全国酒飲み歌というのでしょうか、祐子先生はまるで曲当てクイズのように、思いがけない曲がアレンジされていて、つい笑ってしまってすみません。
 瀬田駅を過ぎると間奏には「琵琶湖周航の歌」のメロディが組み入れられて、これに滋賀県人は満足げの様子。滋賀県の人は、琵琶湖が本当に大好きなのですね。
 後半の駅では、木魚やお鈴などの打楽器も加わり、キッズの歌、ご詠歌、蝉丸のかるた取りの子ども舞踊が繰り広げられ、さらに面白さが増しました。

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舞踊キッズとしゅはり

 その土地ごとの特徴や雰囲気が違うので、曲もそれにあわせて軽快になったり、厳かになったり、民謡風もあり・・・、変化に富んだ曲想に飽きません。
 演奏する側の身を案じて、お箏の調絃替えが大変なのではないか・・・、などと思ってみたり、しかも、全員感染防止のためにマスク着用で歌っているので、息苦しいのではないか・・・、感染防止対策の中の練習で、この舞台のために、どれほどのご苦心をされていることか・・・、などと思いつつも、観客としては裏腹に、ひたすらに楽しいひととき。見るにも聴くにも、とても忙しく楽しく、長いと思った20駅が、あっという間の  旅・・・、終点京都駅へ着き、こだまに乗って米原駅へ帰る旅が終ってしまいました。

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歌専用のマスクでスタンバイの演奏者

 コロナ禍生活になって一年半。旅行も行けず観光も自粛、楽しみのない日々を過ごしていますが、子どもたちの元気な歌声、華やかで可愛らしい舞踊とともに、この素敵な曲の演奏で、琵琶湖沿線の旅ができました。

 休憩後は、第三部、こちらもまた3年計画で「響鳴~日本三大弁財天と宇賀神将十五王子~」その一「相模江ノ島妙音弁財天と五王子」の大作です。野村正峰先生の「弁才天めぐり」を連想させる題材ですが、こちらの舞台はいかに・・・。
 東京から駆けつけられた萩岡松韻先生をはじめとする山田流の先生方、胡弓の川瀬露秋先生の邦楽グループが舞台下手側、やや中心の山台にはインドのシタール、タブラーが並び、舞台上手には笛と太鼓、さらに能舞、洋舞が加わる壮大なコラボレーションです。和洋の音楽(インドを「洋」と言うのか解りませんが)、和洋の舞踊で妙なる舞台が展開されました。

 会場ロビーには多くの出店ブースが作られ滋賀県の織物産業、銘菓のいろいろ、三絃の絹糸、びん細工、人形などお土産もゲットし、鑑賞にも買い物にも中身の濃い一日でした。

 米原から少し足を伸ばせば長浜の黒壁スクエア、竹生島詣で、彦根城などの観光スポットもあり、近江牛や鯖そうめんなどグルメスポットも魅力的です。来年には、コロナを心配しないで旅行を楽しむことができるのでしょうか?
 早くコロナが収束し、本当に電車に乗って自由に旅ができる日が来ることを願っています。
 そして、第2弾、第3弾と続く多聞の電車旅、次を楽しみに、また出かけたいと思います。
(江南市・直門・大師範)

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第30回記念
民謡と端唄蟹江尾八会「民謡は旅人」

 オリンピック閉会式翌日の8月9日、名古屋市芸術創造センターホールでは、民謡・蟹江尾八社中によるコンサートが開催されました。
 恒例の出演となる家元と正絃社合奏団は、尾八会ジュニアチームとの三味線合奏で「涙そうそう」「芭蕉布」、名取三味線合奏では「長崎の鐘」「上を向いて歩こう」を演奏、笛や鳴物も加わり華やかな舞台となりました。
 端唄俗曲「粋な浮世の糸しらべ」、会主の弾き語り「なごやの粋」のコーナーでは家元の箏手付けと内田るり千鶴師の舞踊が舞台を盛り上げました。
 会場では客席、出演者ともマスク着用はもとより消毒、検温など厳重なコロナ感染防止対策が講じられたなかでの公演開催でした。
 出演者一同、マスク着用のない舞台が叶う日が早く来ることを願って帰途につきました。

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楽屋でも舞台でもマスクの尾八会

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第39回全国小・中学生 箏曲コンクール

 広島県福山市・リーデンローズホールにて恒例開催の表記コンクールも、昨年はコロナ禍のために中止となりました。 
 今年はコロナ対策のため映像審査での開催となり、7月23日、小中学生・個人の部には19名、団体の部には14校のDVD参加がありました。
 愛知県から参加した前多穂香さん(鷲津真紀門下)が入賞しました。おめでとうございます。これからも頑張ってください。

 〇小学生・個人の部
   銅賞 前多穂香(4年生)

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