各地の活躍 Vol.1 ~うたまくら343号より - 正絃社

各地の活躍 Vol.1 ~うたまくら343号より

各地の活躍 *写真はクリックで拡大します

~創作舞踊劇~
源平合戦に秘められた女たちの哀歌
  幻想 平家物語 笛が鳴る 誰を偲びて 笛が泣く  佐 野 亜 子

 令和5年6月3・4日、名古屋市芸術創造センターにて開催された創作舞踊劇「幻想 平家物語」に出演させていただきました。
 この公演は、芸能集団「創の会」による創作舞踊劇で、令和2年12月、厳重なコロナ感染対策のなか上演された「名古屋城天守物語」に続く第二弾の作品です。
「創の会」は、日本舞踊五條流の五條園美先生を代表とし、主に名古屋で活躍する日本舞踊家を中心に舞台芸術家が集まって、分野や流派を超えて舞台芸術の発展と地域の活性化などを目指す団体。メンバーは日本舞踊各流派、洋舞はクラッシックからモダンダンスまで幅広く、演劇の役者の方々、長唄(歌・三味線)、常磐津(歌・三味線)、鳴り物(お囃子)、そして箏曲と多くのジャンルの方々が参加されています。

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「創の会」集合

 私たちの参加のきっかけは、「創の会」立ち上げ公演が千種文化小劇場で行われた際に箏の演奏を入れたいと、五條先生からのお声掛かりでした。立ち上げ後の大掛かりな創作舞台公演が「名古屋城天守物語」、その勢いで今回も舞台の端に加えていただき、たいへん光栄な舞台となりました…が、何しろスケールの大きな舞台なのです。
 場面のイメージが膨らむ舞台セット、幻想的な照明、劇中音楽すべてオリジナル新作、そして何と5回公演。音楽のコンサートでは、めったにない三日間5回連続の公演を経験し、とても興奮しました。

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豪華な舞台セットと多彩な出演者

 そして「創の会」第二弾は「平家物語」、と耳にしたのは昨年の夏でした。秋には「台本が出来ましたので!」と、強くもキラキラした目で脚本・演出の伊豫田先生から伺い、常磐津綱男先生は「元旦に作曲作業をして大変でした。」との後日談。しかし、私たちがお稽古に参加したのは年が明け、春になってからでした。全てが新作の創作によるものだけに、それぞれ時間と労力がかかっているのだと実感いたします。
 前置きが長くなりましたが、さて、今回の「幻想平家物語」の舞台では、オーケストラピットの上手側に常磐津、浄瑠璃、長唄、お囃子。下手側に箏・野村祐子家元、岩瀬直子先生、十七絃・野崎緑(母)、尺八は野村幹人先生。開演のベルで演奏者がそれぞれ奈落からピットに入り、客席へ演奏者一同で一礼、これが始まりの合図です。
 シーンとした客席に突如、雷が鳴り響き尺八の音色が低く沁み渡りました。この物語は、尺八の息使いに誘われる様に「わたつみ(海神)」が海中から現れるところから始まるのです。実は、「わたつみ」のシーンは尺八、箏、十七絃のアドリブで、わたつみさまの動きや雰囲気に合わせて演奏するので、4回公演、毎回新鮮な演奏です。

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「わたつみ」アドリブに備えて


 物語はセリフと浄瑠璃、長唄の歌詞によって進んでいきますが、劇中音楽は三味線が中心で、第一幕の途中で早くも下手側の正絃社軍団は退席・・・、えっこれでお箏終わるの?と思ってしまう程の少ない出番(悲)

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物語の進行は常磐津と長唄チームで

 第二幕では引き続き三味線音楽中心で物語が進み、さすが実力者の皆さんの演奏に、演技も舞踊も物語の中にグッと引き込まれていきます。
 そして物語終盤の天の国の場面で、我々正絃社軍団は天女降臨の演奏として劇中に登場…、天上人とはなかなかよい役どころで、いよいよ私も出番です。
 地方(じかた)の黒の着物の上に薄い白地の衣装を纏い、髪には可愛い花飾りをあしらって天女に変身…、竜宮城の楽隊をイメージしましたが、見映えはいかがだったでしょうか?

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左側佐野 天女に変身?


 そして物語のクライマックスは、祐子家元の弾き語り「遊びをせんとや」。
 それまでの劇中音楽の常磐津、長唄とはまた異なる雰囲気で祐子先生の歌声が効果的。よく知られた梁塵秘抄の歌詞に伊豫田先生が続けたオリジナルの歌詞が心に沁みました。

(梁塵秘抄より)
遊びをせんとや生まれけん
戯れせんとや生まれけん
遊ぶ子どもの声聞けば
我が身さえとてゆるがるれ
(伊豫田静弘オリジナル歌詞)
戦さをせんとや生まれけん
人を殺めとや生まれけん
母は待つらん妻や子も
夕餉の烟り目にぞしむ
夕餉の烟り目にぞしむ

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演出家伊豫田静弘氏の指導を聞く出演者

 4回公演の毎度、この歌を聞き終演を迎えるたびに皆で、「平和な世の中でありたいね。」と涙ぐむほどでした。
 また、本番前日(ゲネプロ)から初日にかけての大雨で新幹線が止まってしまうという大ハプニングのため、新幹線の中で一晩を過ごしてそのまま本番を迎えた方や間に合わなかった遠方の出演者があったりなどとトラブルもありました。しかし、「創の会」第二弾、さすが各分野でご活躍の皆さんの対応力、チームワークはお見事なものでした。

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主役の平敦盛、玉織姫とともに


 今回の4回公演では主役メンバーがダブルキャストでしたので、毎回同じではない「ナマ」の舞台の面白さ、回を重ねて進化していく内容など、前回の公演に増して多くのことを肌で感じ学ぶことができました。このような舞台に加えていただけましたことを感謝いたします。
 最後になりましたが客席には正絃社からも多くの皆様が駆けつけて暖かい拍手を送ってくださいました。渾身の晴れ舞台も観客の応援あってこその成功です。皆様のご協力、感想のお言葉、応援に心より厚く御礼申しあげます。
ありがとうございました。
 (長久手市・野崎緑門下・師範)

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岐阜県邦楽連盟定期公演
 「初夏の饗演」の夢舞台   中 西 瑞 恵

 令和5年6月11日、岐阜サラマンカホールにて四年ぶりの演奏会が開催されました。
人間国宝となられた野村峰山先生の特別出演が地元の新聞テレビなどで報道され早くから大きな評判をよんでいました。
 岐阜正絃社の演奏曲は野村祐子先生作曲「令和福寿楽」です。コロナ禍の長い閉塞感から今まさに脱出して、誰もが希望の光を見い出そうとしている時期にぴったりの曲と感じました。
曲中に織り込まれた「君が代」「越天楽」は、日本人なら誰もが知っていて、そこはかとなく癒しと安らぎをもたらしてくれる曲。合奏練習では速度、強弱、段落の変わるときのタイミングなどを何度も繰り返し、その上での雰意気作りをめざして、三絃はすり上げの手の動きや位置、箏は音を止めるタイミングやそのときの手の高さまでそろうように、小島君代先生に熱心にご指導いただきました。
 フィナーレの各社中合同曲は、やはり祐子先生作曲の「編曲長唄元禄花見踊」です。この曲では「宮城社芙蓉会」「みさと笛」等、幾つもの社中との合同曲でしたので練習もなかなか思うようには進みません。それでも今回、箏独奏部を担われた芙蓉会の佐藤先生に、ときには厳しくも的確な指示をいただき、回を重ねる毎にまとまっていきました。5月14日の合同練習には峰山先生にもご来岐いただき、皆さん身の引き締まる思いで練習に臨みました。
 さて当日、私どもも久しぶりの演奏会で、緊張感もあり楽しみもありました。開演前には、「本日、満席にて皆さまに深く御礼申し上げます。」旨のアナウンスがあり、私たち同様、お客様も楽しみにされていると嬉しく思うと、同時に演奏者としての責任感も感じました。
 そして「令和福寿楽」がいよいよ始まります。サラマンカホールは緞帳がなく、暗転にて舞台が転換されます。準備の間を繋ぐのはアナウンサーの透千保さん、幕前にて巧みな話術で、曲紹介などをしながら演奏者が揃うと、人間国宝野村峰山先生の登場を高らかに誘います。

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岐阜正絃社会員による「令和福寿楽」   


 スポットライトの中、峰山先生が歩を進めると、会場は万雷の拍手です。その拍手に答えるごとく、峰山先生のソロが裂帛の気合をもって始まりました。静寂の中、透明感のある、それでいて深みのある尺八の音色に、会場のどよめきが伝わってきます。合奏に入ると一小節ごとに音が重なり、最初から盛り上がっていきます。練習の甲斐あって手の動き、強弱のメリハリなど、とても良かったと思います。
 コロナという大変な時を生き、祐子先生が平安への祈りを込めて作曲されたように、心から平和を思い、皆さまの幸せを願わずにはいられませんでした。
 また来られた方から、曲も素晴らしかったし、緑の揃いの着物が緋毛氈、重厚なパイプオルガンを含む舞台に映えて、舞台上がとても美しかったとの声も頂きました。

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岐阜正絃社お揃いの緑の着物で野村峰山先生と

 そして、フィナーレにふさわしい「編曲長唄元禄花見踊」は圧巻の六重奏と、翌日の岐阜新聞にも写真とともに大きく掲載されました。
 久々の演奏会を無事終えて、充実感、達成感を味わうことができました。細かな部分は反省点も多々あり、ますます精進しなければと決意を新たにしております。 
 峰山先生、私どもとご一緒に素晴らしい演奏を有難うございました。
(岐阜市・栗山美智子門下・准師範)
 

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