都山流開軒50周年 記念コンサートにあたって ~うたまくら346号より
都山流開軒50周年
記念コンサートにあたって 野 村 峰 山
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一昨年の重要無形文化財(各個認定)とともに、このたびの紫綬褒章受章におきまして多くの方から祝福いただき、望外の喜びとともに深く感謝を申し上げます。
振り返りますと、親子で楽しめる趣味を持とうと言う父(樋口賛山)の願いで尺八を始め、鈴木鶯山師に入門したのち、都山流二代宗家から開軒を許されましたのは1974年、私は17歳、竹号は「樋口鶯鸞」でした。
学生生活最後の記念にと高校三年生で参加した「第1回都山流尺八本曲コンクール」にて思いがけず金賞を受賞したことがきっかけとなり、卒業後は某銀行への就職が内定していた私の人生の針路は、突如、邦楽界に向けられることになりました。
いろいろな方の勧めで、正絃社初代家元野村正峰先生にお会いすることとなり・・・、その当時、野村正峰先生と言えば、宮城道雄、筑紫歌都子といった邦楽界の著名人に次ぐ人気作曲家で、多忙を極める鰻登りの活躍。(実を言うと「花と少女」のようなきれいな曲に出会い、このような良い曲を作る作曲家は既に故人かと思っていたほどで・・・失礼しました。)
また、ちょうどそのころ、正峰作品の尺八パートの演奏で活躍されていた沢井三山氏(沢井忠夫氏の兄)が急逝され、代わりの尺八家が求められていたということもあり、私にさっそくNHKの放送録音、各地の講習会、演奏会など演奏の場が次々と回ってきました。
四国の演奏会にて
平日は正絃社の業務、毎週火曜日には東京・渋谷のNHK邦楽技能者育成会に通って勉強しながら、週末は各地への講習会や演奏会などへのお供。正峰先生のおかげでいろいろな経験を積み重ねることができました。ごく平凡なサラリーマン家庭に育った私には慣れない環境で、体調を崩したりすることもありましたが、正峰先生の長女・祐子が私と年も近く手助けをしてくれました。
正峰先生との「きさらぎ」
そして正絃社に就職して1年、野村家から養子縁組の相談が持ち掛けられました。樋口家は長男の私と弟の二人兄弟、長男が家を出るのには反対意見の親族もありましたが、「尺八家という道もあるのでは」と父親の決断で私は野村正峰先生の養嗣子となり、同時に長女の祐子と婚約。都山流師範試験に合格して「正峰」から「峰」の字を戴き「野村峰山」を名乗りました。
野村峰山お披露目の祝賀パーティ
また、都山流の分裂のため元の師匠とは袖を分かち山本邦山門下へ移籍。これが東京での活動の足掛かりとなり、のちの尺八グループ「1979」結成に繋がっていきました。
山本邦山先生とともに
九孔尺八菊水流指南でもあった正峰先生から転じた弟子や先輩師匠からお預かりした弟子、その後の入門者で私の門人も40名を数えるほどになった1979年、「都山流尺八峰山会」を発足しました。私の尺八教室は名古屋を拠点に長野、岐阜などへの出張稽古はじめ、1980年代には新橋駅近くに開設した正絃社新橋教室にて尺八教室を併設、現在は目黒駅近くへ移転した正絃社目黒教室にて指導を続けております。
「峰山会」発足から5年後、「第一回都山流尺八峰山会演奏会」を旗揚げしました。以後の開催は名古屋市内を中心に各地への出張コンサートやお浚い会など、企画にも趣向を凝らしてまいりましたが、今年で45周年。プログラムを並べて見ると思い出は尽きることなく、この年月は長くも短くも感じられます。
峰山会「竹の響きコンサート」名古屋能楽堂にて
自身の50周年と峰山会45周年の節目、これを機に、演奏に指導にと駆け巡った日々を振り返り、記念のコンサートを思い立ちました。
一昨年の思いも寄らぬ重要無形文化財保持者認定、またこのたびの紫綬褒章受章に、私は斯道発展への重責、ことに後進の指導を強く意識するようになりました。そのため、今後のより一層広い活動を目指し、この記念コンサートは居住地から旅立ち、東京での開催といたしました。地元・名古屋でこの道のりをともに歩んできた門下生の皆さんも高齢者が多くなりましたが、この東京での記念コンサートに駆けつけてくださり心強く思います。
肝心の今回のプログラムは「~私の学んだもの~」と題し、まだ未熟な私を養嗣子として招き入れてくださった野村正峰先生の作品からは敢えて離れた尺八中心のプログラムですが、私を導いてくださった多くの師への思い入れからの我儘な選曲でございます。
絃方ゲストには宮城ご宗家・牧瀨裕理子先生、正派邦楽会三代目家元・中島一子先生、そして私を何より強く支えてくれる正絃社二代家元・野村祐子を迎え、都山流関東支部の有志、初代山本邦山同門の有志、全国各地からの峰山会会員・会友が集結する舞台でございます。
祐子とともに
多くの皆様との出会い、ことに正絃社の皆様の暖かいご支援、また家族の協力のおかげで、今の私があることを深く感謝申し上げます。
身勝手な私の想いをどうかお許しいただき、記念コンサートにご来場いただけましたら誠に幸甚に存じます。王子ホールにてお目にかかれますことをお待ちしております。
- 2024.08.02