【313号】うたまくら 師を誇る
師を誇る 石田千枝子
正峰先生随筆集「時は流れて」(*注)を、折にふれて何度も読み返しています。どの頁も、私たちにとっては大切な示唆にあふれています。
特に、私の心に刻まれたのは、182頁に載せられている「師を誇る」です。
お箏を売りたいご老人と、その奥様との対話の中で、奥様が、
『わしの師匠は、日本一のお箏の先生じゃ』と、喝破した一幕を読み進み、ほほえましくも胸を打つ、一場面でありました。
私にとって『師』は、正峰先生であり、二代家元祐子先生であり、正絃社ご一族の方々であります。この方々のご指導を受け、三十年以上にわたり、箏曲の指導者として務めを果たすことができたのだと、胸に深くきざみました。
三十年を顧みますと、いろいろな思い出が胸をよぎります。三十周年記年誌(平成七年八月発行)に登載された曲は、殆ど弾きましたが、「百回弾き、千回弾き」の項(157頁)を読み、百回はおろか五十回は弾いたかなあと、恥ずかしい反省をしました。
思い出に残る曲(どの曲もですが)は、「会津の残照」を演奏(昭和58年)したときです。喜多方で福島正絃社として『野村正峰の世界』と銘うって、大きな演奏会を開きましたが、会津近辺の邦楽家は喜多方プラザに参集して、
会津の残照や他の曲に聞き入り、感動して素晴らしかったと賛辞をよせてくれました。
喜多方での『野村正峰の世界』
演奏会私も正峰先生、祐子先生の偉大さに直かに接して、深く感動したことを思い起こしました。私の偉大な『師』と出会った喜びは、大変、大きいものでありました。
「時は流れて」のたくさんの示唆は、解読するには時間がかかりますが、折にふれて読み進めています。
私の好きな百人一首。少女の頃から全首をそらんずる位だったのですが、それは表面的なことで「時は流れて」の中で、八重衣にからませた百人一首の解読に、仰天しながら読み味わいました。
このたび、開軒三十年の表彰をいただき、誠に有難く思うとともに、その表彰の重さを考えさせられております。
三十年の間に家元祐子先生、哲子先生の個人レッスンや、楽理講習会に参加して、学習してまいりましたが、深くなかみを習得したかなど、反省も多々いたしております。
また故・石黒先生、岡先生のお導きにも感謝しております。
講習会での夜には、秋田の竿灯祭りや青森のねぶた祭りなど、楽しい思い出が積み重なっております。
高齢となりましたが、門下生もレッスンに来ていますので老いとたたかいながら、もう少し頑張りたいと思っています。
(喜多方市・大師範)
(*注)「時は流れて」は、正絃社創立三十周年の折に発刊した、野村正峰随筆集「箏とともに五十年~時は流れて」で、それまでの正絃社会報「うたまくら」に掲載された初代家元野村正峰の文章から抜粋、整理して1冊の本にまとめたものです。
野村正峰随筆集「箏とともに五十年~時は流れて」
現在、若干の在庫が残っておりますので、ご興味をお持ちの方は正絃社事務局まで、お問い合わせください。
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