【320号】うたまくら〝創造〟のDNA―和楽の響き 新しい伝統を
謹賀新年
正絃社二代家元 野村祐子
家元補佐 野村秀子
同 野村哲子
同 野村倫子
野村幹人
都山流尺八峰山会 野村峰山
正絃社幹部会本部 役員一同
正絃社幹部会関東支部 役員一同
正絃社幹部会東北支部 役員一同
正絃社事務局 職員一同
本年もどうぞよろしくお願いします。
〝創造〟のDNA―和楽の響き 新しい伝統を 野村祐子
野村正峰生誕九〇周年を記念し、名古屋市民芸術祭2017参加公演として、昨秋、開催しました公演は、おかげさまで盛会裏に終演することができました。これもひとえに多くの皆様のお力添えの賜物と厚く感謝申し上げます。
年頭にあたり、この数年を振り返りますと、二〇一五年は盛大に正絃社創立50周年「春の公演」、2016年秋には、あいちトリエンナーレ「華舞歳々」、国民文化祭「邦楽の祭典」、芸創コラボ「曾根崎心中」、名古屋市やっとかめ文化祭など、多種多様の演奏の機会が増えました。
そして昨年、父の七回忌の法要を家族で執り行い、準備を積み重ねた公演は、11月11日、しらかわホールでの野村正峰生誕90周年記念〝創造〟のDNA―和楽の響き。
芸能解説の名司会者・葛西聖司氏、若手で高い人気の尺八家、永廣孝山、川村葵山、二代石垣征山各氏をお迎えした演奏は、観客の感動の手応えを感じる舞台でした。
葛西氏と尺八ゲスト
私たちが、この道をひたすら進むことができますのも、父が道を拓いてくれたおかげです。父の曲を弾く度に、父が願っていた邦楽の発展、日本の伝統文化への思いが深く胸に染み入り、これらの曲をしっかりと次代へ伝えなくてはと、練習するたびに心に強く思うものでした。
熱の入った練習
ところで、今、古典と言われる曲も、作曲されたときは新作でした。その曲が、聴く人々に愛され、演奏が人から人へ伝えられて現在に至るのですが、楽譜に記録することがなかった時代には、作曲された曲が全て後世に伝えられるものでもなく、消えてしまった曲もあるのです。何らかの都合で消えていく名作もあるかもしれませんが、名作だからこそ後世に伝えられている、と言えるので、現在に残った古典は名作なのでしょう。
しかし、邦楽をただ伝えるだけでは「伝承」に過ぎず、「伝統」とは、現在あるものに、さらに創り足していくものであると、ずっと以前に文化庁芸術祭審査員をされていた高橋英機氏からお話を伺ったことがあります。「伝統」とは、そのままの形へ伝えるのではなく繋いで発展していくものであり、そのままの形を伝えていくのは「保存」である、ということです。
例えば歌舞伎で、同じ演目を採り上げても、そのたびに役者は工夫を加え、衣装や舞台装置、演出を変えるからこそ、観客は同じ出し物であっても「今度はどんな舞台か?」と飽きずに足を運ぶ。このようにして積み重ねられていくものが伝統なのです。
邦楽の伝統は、江戸時代の地歌箏曲、幕末の箏曲復古、明治新曲、そして新日本音楽、新邦楽から現代邦楽と、その時代に生きた音楽家たちによって創り足されて今に伝えられています。
父が敬愛して学んだ宮城道雄先生の作品も、発表された当時は新作でした。宮城先生の生誕百二十余年、没後60年も過ぎ、当時、新日本音楽と言われた音楽も、その後の現代邦楽の時代を経て、数多くの名作が今では古典と見なされつつあります。
それでは、いったい新作は、いつから古典になるのか、と疑問が湧いてきますが、「新作も百年たてば古典」と言われる人もあるようです。私の作品も、百年先には古典と言われるようになるのでしょうか…。
父・野村正峰は宮城先生没後8年の昭和39年、処女作「長城の賦」を発表しました。昭和40年代、父の新作は発表とともに飛ぶように楽譜が売れていきました。
昭和39年「長城の賦」初演
まだそのころ小学生だった私は、お正月や夏休みの家族旅行の記憶がありますが、中学校になるころの家族旅行の思い出はありません。
たいていの週末、父母は地方への新曲講習会にでかけて不在でしたし、演奏会が増え、ことあるごとにお弟子さんたちが集まり、合奏練習や勉強会をしていました。皆、古曲よりも新曲のお稽古に喜んで取り付きましたので、私は子ども心に、新曲はいいものだなと思って育ってきました。
「僕の前に道はない 僕の後ろに道はできる」(高村光太郎)と詠われたように、白紙だった野村正峰と正絃社の歴史の頁は、一歩一歩、埋められてきました。その足跡は、昭和30年代から綴じられた、「うたまくら」を見ると解ります。父が拓いた新しい道―正絃社の伝統―を、これからも創り繋げて、ひたすら歩んで行きたいと思います。日本の伝統音楽のよさ、音楽の素晴らしさを伝えることができますよう、努めてまいります。
今後とも、どうか、ご支援よろしくお願いいたします。
- 2018.01.09
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