【347号】うたまくら 私の作曲こと始め
私の作曲こと始め 野村 祐子
小学校のころからピアノ、ソルフェージュ、楽典を個人レッスンで習っていました。中学生になったころのある日、先生が、
「今日は作曲をしてみよう。まず伴奏を作り、それに合うメロディを作ってごらん。たとえばこんな伴奏はどうかな?」
と、ピアノを弾いてくださいました。
伴奏を聞きながらメロディを考えて弾き始めると、
「では、作った曲を次の発表会で発表しよう。」
自分の持ち曲と一緒に自作曲を弾くことになりました。実は私はピアノのお稽古が苦手で、そんな私に少しでも興味を持たせようという先生の作戦だったかもしれませんが、ともかく・・・。
野崎緑教室50周年コンサートにて (*クリックで拡大)
すると母がこのピアノ第一作目を聞いて、
「これなら箏と十七絃の合奏で弾けるのでは?」と言うので左手の伴奏パートを十七絃に、右手のメロディパートを箏に移しました。
箏の調絃は乃木調子で〈七八九ヲ九十斗オ斗為〉の手順が〈ドレミファソラシド〉の長音階になりますが、さらに第四絃を半音上げて〈ファ〉を押えることなく弾けるようにし、十七絃は第一絃から〈ファソラシド・・・〉と続くト長調の調絃。ピッチカートやトレモロなどの箏ならではの手法も工夫しました。
さて曲の題名はどうしようかという時に父が、
「女の子が作った曲だから優しい題名がいいね。庭に咲いている白い花に因んで、『白い花に寄せて』というのはどうだろう?」
と、家族の協力で私の処女作が完成し、昭和47年、楽譜が出版されました。
続く二作目は「古今の調べ」。
一作目が長音階で洋風な作品だったので、何か日本的な曲を作ってみたいと思い、平調子から第四・九絃を一音上げて古今調子風にし、「六段の調べ」が第五絃から始まるので、やはり箏は五絃から弾き始めるのがよいと考えて五・十絃の合わせ爪から始まる曲調。
途中の掛け合いには「古今組」になぞらえて掻き手(シャッテン)、割り爪(シャシャテン)、スクイ爪(ツルテン)、押し合わせ爪(リャンリャン)などの手法を入れ、華やかに聞こえる引き連(シャーンリン)、流し爪(カラリン)、ピッチカートなどの手法を 組み合わせました。
そして第三作目がうたまくら前号で取り上げた「みなかみ詩情」。東北地方の奥入瀬渓流を訪ねたときの詩情あふれる景観に感激して作曲したもので、その年の秋のコンサートで演奏しました。
またその頃、子どものお弟子さんが多くあり、子どもたちが楽しくお稽古できる明るい曲があったらいいなと思い、乃木調子で手軽に弾ける「すずらんの歌」を作りました。
以後も、演奏会のための曲やお稽古に使う曲など、いわばニーズに応えて少しずつ作り続けて現在に至っています。
ところで、現代曲では多くの曲が平調子や乃木調子など古来の調子に拘らず特殊な調絃で作曲されるようになり、チューナーの普及も相まって調絃方法も進歩してきました。
「白い花に寄せて」での乃木調子で長音階を弾くには「押し手」が多く音も不安定というデメリットを改善し、平成7年、調絃を変えた改訂版を出版しました。曲は同じですが、「押し手」が少なくなり演奏しやすいと喜ばれています。
今でこそは新しい作曲の際には、今までにない調絃での作曲を試みていますが、当時には、このような調絃方法は思いつかなかったことでした。
一年に数曲の寡作で作曲家と名乗れるほどの活動ではありませんが、作曲のたびに学ぶことや新しい発見があり、他者の作品も勉強になります。
私たちが古典と呼んでいる曲も、その作曲者の考えがあって作られたもので、私は作曲者の立場から、この作曲者はきっと、こういう手法が得意だったのではないか、この旋律が好みだったのではないか、など想像するようになりました。
曲を多方面から解釈して演奏に反映する、また効果的な演奏になるような作曲をすると、作曲は演奏に役立ち、演奏は作曲のもとになり、よい指導にも繋がる、というのが欲張りな私の三位一体の活動方針です。
ゆっくりな活動ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
- 2024.10.18
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