【235号】山登りに学ぶ/野村祐子 - 正絃社

【235号】山登りに学ぶ/野村祐子

人は、衣食住が足りれば生きていけるといっても、それでは生きているということだけ。やはり身も心も豊かな生活というのは、文化的な教養を身につけ、芸術文化を楽しめるということではないでしょうか。
ますます複雑となる人間関係や、ハイテク技術に振り回される現代社会生活。こういう現代社会では、生活の中でのストレスが多くなり、それが原因で体調を崩す人もあります。
ストレスの解消に良いといわれることで、最も手っとり早いのは、アウトドアスポーツなどの自然とのふれあいがあります。
私は、一応音楽家のはしくれなので、箏曲に親しむことも、こうしたストレス解消をはかるうえで大きな効果があると信じています。
そこで、このごろ読んだ本から、アウトドアスポーツ「山登り」を例にとり。心豊かに箏曲と触れ合うことを考えてみたいと思います。
例にしたのは、松倉登著の「山登りのプランと準備」という本で、以下タイトルナンバーを追って、箏曲と対比してみましょう。


1.山登りの楽しみ

山登りは山頂を踏むということが第一の目的ですが、最近は人によって楽しみかたが多種多様になっているようです。登山だけでなく、森林浴、野鳥観察、植物 観察、天体観測、写真撮影、スケッチなど、変わった話では、北八ヶ岳でギターを担いで登っている人があったそう。大空の下で思いっきり弾き語りでもした かったのでしょうか。
でも、どんな山登りにも必ず必要なことは、それなりの体力、技術、経験、そして能力に応じた準備とプランです・・・・・・・・・・・

箏曲の楽しみ

演奏することが第一の目的とはいっても、人によって楽しみ方はさまざま。自分自身が演奏するだけでなく、他人の演奏(プロ・アマチュアに関係なく)を鑑賞 することが好きと言うかたもあれば、趣味を同じくする友達との交流が目的のかた、或いは、ただ黙々とお稽古することが喜びのかたもあります。ひとりで弾く ことが好きなかたもあれば、合奏の好きなかたもあります。コンサートなど演奏発表の場で「イイカッコウ」するのが嬉しいかた、歌を歌うのが好き、器楽合奏 がいい、演奏旅行に参加するのが楽しい・・・・・・・などなど、さまざまな楽しみかたがあります。
でも、どんな目的のお稽古にも必要なこと、それは健康、それなりの技術、能力や目的に応じた教材と練習、楽器の準備などですね。


 2.安全登山のために

初心者こそ万全の準備を。山登りは、何よりも経験がものを言います。山に慣れれば慣れるほど、荷物も少なく、工程も自由に組み換えられます。しかしビギナーは安全を第一に考え、確実な準備と無理のないプランで遂行することが大切です。

~山向きの身体に普段の生活から変える~
山で一番恐いのは歩けなくなることです。生活の中で、普段から歩く習慣をつけ、水泳などの酸素摂取量の高い有酸素運動(毛細血管を活性化させて、持久力と 筋力をバランスよく高める)や食生活の改善(ミネラルやビタミン、鉄分など、バランスの良い食事)により、体内の新陳代謝を促し、疲れ憎い身体をつくりま しょう。

~地図の見方を覚える~
最近の山は指導標もかなり完備されており、登山者の多い山域では、案内板のおかげで、地図がなくでも道に迷うことはありません。でもやはり、山には地図が 必要です。ガイドブックがあれば、さらに確かなルートがわかることもあります。ただ、いくら地図をもっていても、それが読めなければ宝の持ち腐れです。地 図の選び方と読み方を学ぶましょう。(地図の種類や、地図上の位置の修正、方位、等高線、断面図の見方など、詳しくは著者の本を参照あれ)

箏曲の完全演奏のために

箏の演奏は何よりも経験がものをいいます。ことに演奏会への出演は、慣れれば慣れるほど不安もなくなり、演奏表現も思うがままにできるようになりま す。しかし、ビギナーは間違いのない演奏を第一に考え、確実な練習と無理のない選曲で、真面目な気持ちで演奏に望ことが大切です。

~演奏の心構えを普段の生活から改める~
演奏会で一番恐いのは、緊張のため肝腎の舞台で上がってしまい、思い切った演奏ができないことです。普段の生活の中で、体力を養い練習の時でも緊張感のあ る演奏を心がけなければいけません。ことに歌ものの演奏では、複式呼吸が大切。疲れにくい身体、持久力と筋力がつけられるよう、バランスの良い食生活も大 切ですね。いつも良い演奏を聴くと、知らず知らずのうちに正しい音感やリズム感が身につくものです。

~楽譜の見方を覚える~
かなり以前のお師匠さんは、お稽古に通う人が多いと、自然に暗譜のレパートリーも増え、日常のレッスンにいちいち楽譜を取り出す必要もないというのが通常でした。今は、そうでなくとも新譜の氾濫時代で、また、これを消化していかないとお師匠さんがつとまらないよう。
つぎつぎと出版される楽譜ばかりでなく、演奏テープ、CD、楽理書、解説書など、一応目も耳も通さないと時代におくれてしまいそう。
しかし、いくら楽譜を持っていても、それが読解できなければ宝の持ち腐れ。また、下手の鉄砲みたいに、数ばかり揃えても、それらの曲が、貴重な玉なのか、ただの石なのかを判断する良識がないと良い演奏家にはなれません。
楽譜の読み方について、正絃社からは、野村秀子著、「箏曲小曲集ナンバー1・練習のポイント」、野村正峰、「楽しいおけいこ・十七絃メロディ集(解説付き)」などの親切な好教材が出版されていますが、意外に知られていないようです。
楽譜の各部の名前、調子の合わせかた、速度表示、休止符など、確認かたがた再読をおすすめします。


3.一般の登山プランの練り方

どの山に登るかはその人の自由ですが、遭難騒ぎになるようでは、せっかくの山行も台無しで、周囲の人にもたいへんな迷惑をかけます。いきなりハードな縦走などに挑戦するのは無謀です。

~体力から考えたプラン~
初心者は歩行時間に無理のない工程からはじめよう。

  • 高低差が少なく道も良く整備されている。
  • 森の美しさが堪能できる。
  • 素晴らしい展望が得られる。

~技術、経験からプランを考える~
ガイドブックには技術が★印でランクづけされています。★が増えるほど技術度はあがり、危険度が高くなります。自分の能力を過信せず、ルートを選びましょう。

一般的な練習曲の選びかた

自分の技術を考えて曲を選びます。どの曲を練習したいかは、習う人の自由ですが、最初からあまり高度な曲に飛躍しては、せっかくの楽しみも台無し、 周囲の人、ことに指導者にはたいへん迷惑、不快な思いをさせることもあります。やはり分に過ぎた大曲にいきなり、というのは無謀ですね。

~実力から考えたプラン~
初心者は練習時間に無理のない曲から始めよう。

  • ページ数も少なく、楽譜もメソッドが確立されている。
  • 音色の美しさを楽しみながら進める
  • レベルに応じた楽しい合奏体験ができる。

~技術、経験からプランを考える~
正絃社の修習教程表には、曲のレベルが段階づけしてあります。段階の級があがるにしたがい、技術度があがり、演奏レベルが高くなります。自分の能力を過信せず、指導者の意見をよくきいて曲を選びましょう。


いかがでしたでしょうか。山登りの指導書はまだ続きますが、今回の対比論議はこれくらいにしましょうね。

(完)

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