うたまくら - 正絃社

【323号】うたまくら 芸術はビジネスに

   芸術はビジネスに         野村祐子 

 先日、ある美術展に行きました。絵画の鑑賞眼はありませんが文化クラブでお顔見知りの方の個展でしたので、たまには美術鑑賞も何かの刺激に、と気軽な気持ちで出かけました。
画廊は百貨店の中で、それほど広い場所ではないのですが絵の大きさは様々で、ヨーロッパの風景の中からロンドン、リバプール、エジンバラなどイギリス各地の景色や建物が細部まで、色彩豊かに描かれていました。
それぞれの作品に値段がつけられており、いったい、どんな人がこれらの絵を購入するのか興味が沸きます。好みの絵? 何かの目的? 購入の動機は何なのでしょうか?

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 夏の合宿にて

 また、絵を描くために現地に滞在する費用や作品を仕上げる労力、創作活動に必要な資材など、絵の評価が釣り合う金額はどのように決まるのか、素人の私にはまったくわかりません。
それにしても描かれた景色は、まるでその情景を目の前に見るように素晴らしく、構図のとり方、建物の細部の表現、光の陰影のつけ方、雲の流れから感じる風向きなど、このように描くにはよほどの根気がなければできないな、などと、ただただ感心するばかりの作品です。
 そのなかでもひと際、目を惹く絵がありました。下世話な感想ですが値段も高額…、などと思いながら画廊を歩き回っていると、画家さんが私に気づいて、絵の説明をしてくださいました。

「この絵はイギリスの国会議事堂、イギリスにとって最高峰の誇りある建物ですよ。」
「もし、イギリス人が、この絵を見たら何と思うでしょうか? 自国の大切なものがぞんざいに描かれていたら怒りますよね。侮辱されたと思うかもしれない。」
「だから僕は、渾身の力を込めてこの絵を描きました。『私の国の大切な場所が素晴らしい絵になっている』と喜んでもらえるように。額縁も、この絵のために特別に設えた手製で、他の絵とは違う細工にしてあります。」
「美術は『非言語』の表現方法です。この絵から、その国へ対する敬意が感じ取れたら、言葉なくして相手への尊敬を伝えることができます。」
「たとえば、ある会社の応接室に、この絵が架けられていたとする。イギリスから来た人がこの絵を見たとき、一目で自分たちの国のことを、相手がどう思っているかが伝わるでしょう。となれば、会社の商談はよい方へまとまることになるでしょう。」
「言葉に出さなくても、一目、見るだけで相手へ『信頼』を伝えることができる、これが芸術の力なのです。芸術はビジネスにも役立つ非言語の伝達手段なのです。」
「野村さんの箏も、言葉の通じない海外でも感情を伝えることができる非言語の芸術です。お箏で世界へどんどん発信してください。」
このように解説されて、改めて考えてみました。

 音楽は情操教育と言われますが、なかでも伝統音楽は古来、行儀作法、マナーにも厳しく花嫁修業にもなりました。教養や家柄、学歴のひとつにもなり結婚に有利な条件として、習われる方もありました。
 現代では、以前のようなマナー教育よりも、音感教育や合奏による協調性、邦楽の芸術性に憧れるなど、本来の音楽を目的に趣味として習われる方が多くなりました。
 自主的な演奏発表会だけでなく、多様なイベントでの演奏の機会も増え、ボランティアで社会貢献となる活動もあり、邦楽が娯楽ではなく、音楽芸術として扱われるようになり嬉しいものです。
 さらに、この美術個展では、芸術はビジネスに役立つもので、単なる情操教育として邦楽を広めるだけで満足してはいけない、邦楽で社会に貢献し、ビジネスにも役立つ芸術に高めなくてはならないと感じました。
 自国の伝統文化を大切にし、箏に自信を持って発信していくこと、そのためには日々の稽古を怠らないこと、しっかりと心に留めてこの道を進んでいきたいと思います

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